東証プライム市場上場1840社の環境関連レポート調査(2022年度)
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構(JRECO)はこのほど、大企業におけるフロン排出抑制法の理解・認識と取り組み・情報発信についての調査を行いました。東証一部(当時)上場企業を対象にした第1回(2021年度)に続き、第2回(2022年度)は東証プライム上場の企業を対象に調査しました。当法人は、フロン排出抑制法の遵守を経済産業省・環境省とともに啓発・推進する団体です。
この調査は、企業がフロン排出抑制法に対する理解・認識、取り組み、情報発信ができているか、各社の統合報告書やサステナビリティ報告書などをオンラインで検索し、JRECOが各社のフロン類の取り組み内容を総合的に判断した上で、「フロン対策格付け」として毎年発表するものです。今回の第2回調査では、Aランク企業49社、Bランク企業85社を下記に公表しました。
フロン類は温室効果ガスの一つであり、その温室効果はCO2の数百~1万倍あるとされます。フロン類は冷凍・冷蔵・空調施設に不可欠な冷媒で、その適切な管理と漏えい量の把握は、企業にとって必須です。特にフロン類の漏えいは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が定めた気候リスクに該当するため、企業には大きな社会的責任が伴います。
第2回調査では、前回と比べて、環境対策全般についてESG関連活動、データとして統合報告書に記載する、あるいはサステナビリティとして独立したページの中で活動取組みを紹介するといった企業が非常に増えました。
フロン対策について機器の点検管理状況や算定漏えい量など法遵守の状況を、正しく記載し「Aランク」と評価された企業は第1回の16社(全体の2%)から49社(全体の3%)へと大きく増えました。
一部の業種では比較的高い率でフロン対策につき正しく記載がされている一方で、フロンについてほとんど触れていない企業・業種もあります。今後は、経営者自らが、フロン排出抑制法の遵守を社内に徹底させ、これにより社員の意識向上や、通常業務として当たり前にフロン管理を実施・報告することを望みます。
注)文中のフロンはフロン類(特定フロン・代替フロン)の事を示します。Rank A
Aランク企業(49社)算定漏えい量、定期・簡易点検状況など適切に記載
- イオン
- イオンディライト
- いすゞ
- 出光
- エーザイ
- AGC
- 大阪瓦斯
- 小野薬品工業
- カネカ
- 上組
- クボタ
- コカ・コーラボトラーズジャパン
- コスモ
- サントリー食品インターナショナル
- 三洋化成工業
- JSR
- 塩野義製薬
- 住友理工
- セントラル硝子
- ダイキン
- 高島屋
- 中外製薬
- DIC
- デンカ
- 東亞合成
- 東ソー
- 東京エレクトロン
- 東京応化工業
- 東京瓦斯
- 東京電力ホールディングス
- 東邦瓦斯
- 凸版
- 南海電気鉄道
- 西日本鉄道
- 日清製粉グループ本社
- 日東興業
- 日本触媒
- 日本曹達
- ニップン
- NIPPON EXPRESS
- 東日本旅客鉄道
- ヒロセ電機
- フクシマガリレイ
- マクセル
- 三井物産
- 三越伊勢丹
- ヤクルト本社
- 山崎製パン
- ワタミ
Rank B
Bランク企業(85社)法遵守の記載内容に一部不足がある
- 旭化成
- 味の素
- アステラス製薬
- ADEKA
- 伊藤忠エネクス
- 伊藤忠商事
- ANAホールディングス
- エクセディ
- NTN
- オエノンホールディングス
- 大倉工業
- 大阪チタニウムテクノロジーズ
- キヤノンマーケティングジャパン
- 九州電力
- 九州旅客鉄道
- 協和キリン
- 極洋
- KHネオケム
- 黒崎播磨
- 神戸製鋼所
- SUMCO
- 山陽特殊製鋼
- J-オイルミルズ
- JCRファーマ
- J.フロント リテイリング
- シスメックス
- 昭和電工
- 信越化学工業
- 新光電気工業
- 住友化学
- 住友ゴム工業
- 住友商事
- 住友林業
- 積水化学工業
- 積水樹脂
- 積水ハウス
- セブン&アイ・ホールディングス
- ソーダニッカ
- 大成建設
- 中国塗料
- 中部電力
- チノー
- デクセリアルズ
- 電源開発
- 東海旅客鉄道
- 東急
- 東京建物
- 東建コーポレーション
- 東北電力
- 東洋インキSC
- 東洋水産
- 東洋紡
- TOYO TIRE
- 豊田通商
- 中山製鋼所
- ニコン
- ニチレイ
- 日清食品ホールディングス
- 日本碍子
- 日本金属
- 日本航空
- 伯東
- バローホールディングス
- パン・パシフィック・インターナショナル
- ヒューリック
- ファナック
- ファンケル
- フージャースホールディングス
- 富士通
- 富士フイルム
- 北陸電力
- ホシザキ
- マキタ
- 丸井グループ
- 丸紅
- 三井化学
- 三菱瓦斯化学
- 三菱商事
- 三菱倉庫
- 森永製菓
- 森永乳業
- ヤオコー
- ユニプレス
- 横浜ゴム
- 理研ビタミン
※東証プライム市場に上場している1840社(2022年10月時点)の環境関連報告書における「フロン排出抑制法」遵守状況の有無及び内容を調査しました。
※上記 Rank Aの49社は法の規定(簡易点検・定期点検、算定漏えい量など)が適切に報告されているとして評価しました。
※この評価はレポート全体ではなく、 あくまでも「フロン排出抑制法」遵守状況報告に特化した調査です。
考察
1)「フロン排出抑制法」遵守状況の詳細報告があることは経営者がフロン問題への理解が深く、SDGsの気候変動対策としてフロン排出抑制が必要であると認識していることを示しています。
2)Aランクとなった49社は、経営者がフロン問題とその重要性を理解しており、同時に社内ではフロン対策が徹底されていることが分かります。
第2回 JRECOフロン対策格付けを終えて
今回、1840社のホームページから報告書、環境対策関連の公開ページを閲覧、「フロン排出抑制法」の遵守状況をどの程度記載されているかを調べました。
従来のCSRのレポートから、最近では「統合報告書」へと代わり、財務報告とともに記載する傾向にあります。企業によってはその呼称はサステナビリティ報告書、レスポンシブルレポート、環境報告書、ESGデータ集などさまざまです。
特に、日本を代表する有名企業の報告書は項目も多岐にわたり、数十ページにもなる構成やデザインも多彩で、人的資源・コストを投資していることが推察できます。
プライム市場1840社の報告書を調査した結果、TCFD*(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示の必要から、大多数(1745社)の企業のホームページにおいて「サステナビリティ」「CSR」等のページが作成されています。中には直截的に「TCFD情報開示」等のページを作成してプライム上場の要件をクリヤしている企業もありました。
環境対策関連の記載が見当たらないランクNの企業は、第1回調査では1350社(東証一部)中で647社だったものが大幅に減少し、全体の5%(95社)ほどが散見されるという状況でした。
*2022年4月に東証市場再編がなされ、プライム市場上場企業にはTCFD提言に沿った気候変動によるリスク情報の開示が、コーポレートガバナンス・コードにおいて実質的に義務付けられています。
企業は気候変動関連リスク、及び機会に関して下記の項目について開示することを求められています。
:ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標
また、有価証券報告書上でのTCFD提言に沿った開示の義務化も検討されており、スタンダード市場・グロース市場への上場企業も決して他人ごとではありません。
今回の1840社の報告書調査による「フロン排出抑制法」遵守状況の評価データの内容について、以下に纏めます。
まず、フロン対策について記載がない、あるいは環境関連の記載が無いといった企業数の業界ごとの比率を表1に示します。
会社規模が大きくても、IT関連企業、金融、サービス、不動産、放送局などは環境関係の報告が乏しい傾向にあり、フロン対策に関連する記載は殆ど見受けられません。例えば賃貸で入居し空調機器類については管理会社に任せきりでいる等、自社事業におけるフロンという温暖化ガス排出への意識がまだまだ低い事がうかがえます。
全体の82%にあたる1506社がランクF つまり「フロン排出抑制法」遵守についての記載がありませんでした。さらにランクEとして、過去の特定フロンについて言及をされているもので「フロン排出抑制法」を正確に理解されていないと思われる企業、自社機器からのフロンの漏えいを抑制する目的である「フロン排出抑制法」遵守ではなく、廃棄自動車、建築物解体工事での冷凍空調機器などから「事業」として回収したフロン類のみを記載している企業もありました。
次にフロン対策、法遵守の対応につき比較的記載企業が多い業種については表2に示すとおり、製造業、特に食料品/化学・医薬品や、電気ガス/石油関連/倉庫・運輸関連でした。
プライム上場企業1840社のうち、環境関連の記載が有った1745社中の比率として各企業報告書における法令遵守状況を次のランクで評価し、業種別の企業数分布をまとめたものです。
- A:算定漏えい量、定期・簡易点検状況など適切に記載:49社
- B:法遵守の記載内容に一部不足がある:85社
- C:「フロン排出抑制法」を遵守している旨だけ記載:89社
- E:フロンの記載はあるが特定フロンであったり、「フロン排出抑制法」を正確に理解した
記載ではない*:16社 *建設解体現場、製品回収などのフロン回収実績のみ など - F:「フロン排出抑制法」記載全くなし、あるいは法の理解度なし:1506社
そして、表2のデータに先述のランクEとFを加えグラフ化したものが図1です。
フロン排出抑制法遵守を記載しているAランクの企業は49社で全体1745社中の3%、
A、B、Cランクの合計数では1745社中の223社で12.8%でした。
(第1回調査では全703社中Aランクは16社/2%、A、B、C合計は87社/12.4% )
フロンの法遵守について記載し、熱心に取り組みがうかがえる企業が増えているのは喜ばしいものの、フロンについて認識されている比率としてはわずかな上昇に留まっておりフロン対策についての更なる認知度向上が必要と考えられます。
業種別では、化学・医薬品においてAランクが15社、Bランクが18社、食料品ではAランクが6社、Bランクが10社、電気・ガス業でAランクが4社、Bランクが5社となっています。これらの業種では冷凍空調機器の使用(電気、整備費)は経営的な課題も大きい事、またフロン対策が今後の温室効果ガス削減に重要であるという経営者の認識が高くなっている一因であるのかもしれません。
まとめ
A、Bランク企業の経営者はフロン類の漏えい防止対策に関心が高く「フロン排出抑制法」遵守に向けてトップダウンによる指示をされていると思われます。経営者のトップダウン指示は、従業員に「フロン排出抑制法」を遵守してもらうために不可欠です。
A、Bランク企業がまだ少ない理由は、一般の方たちが不可欠なインフラである冷凍空調機器の存在に気付かないことであり、殆どの人たちがフロン類について感心がないことです。それに気付く企業経営者が増えることこそが、この重要なインフラのサステナビリティを高めることではないでしょうか。今後の格付け調査ではA、Bランク企業がさらに増えるよう、JRECOとしても一層の啓発活動を行って参ります。
ところで、現在使っている代替フロンは2036年には生産が殆どできなくなります。機器を使い続けるためには「フロン排出抑制法」を遵守しフロン類を大切に使わなくてはなりません。それができないと、まだ使える機器を廃棄して新規に機器を、買い換えなければならなくなることを認識ください。冷凍空調インフラにとってまさに「存亡の危機」です。
注)特定フロン(CFC/HCFC)はオゾン層破壊効果大、 温室効果大代替フロン(HFC)はオゾン層破壊効果小、 温室効果大