旭化成・イオン・ANA・JSRなど76社をAランクに選定
「フロン対策格付け2023」東証プライム1653社の環境関連レポートを調査
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構(JRECO、是常博理事長)は2024年1月、大企業(東証プライム上場企業)におけるフロン排出抑制法の理解・認識と取り組み・情報発信についての調査「フロン対策格付け2023」をまとめました。その結果、調査対象1653社のうち、Aランク企業76社、Bランク企業41社を選定しました。
今回調査は、第1回(2021年度 当時の東証一部企業対象)、第2回 (2022年度、東証プライム企業対象)に続く3回目の調査です。当法人は、フロン排出抑制法の遵守を経済産業省・環境省とともに啓発・推進する団体です。
この調査は、企業がフロン排出抑制法に対する理解・認識、取り組み、情報発信ができているか、各社の統合報告書やサステナビリティ報告書などをオンラインで検索し、JRECOが各社のフロン類の取り組み内容を総合的に判断した上で、「フロン対策格付け」として毎年発表するものです。
今回、Aランク企業76社、Bランク企業41社を選定しましたが、全般に多くの企業で前回からさらに統合報告書、ESGデータ等での環境対策全般の記載が充実しており、フロン対策に関し記載している例も大きく増えています。
フロン類は温室効果ガスの一つであり、その温室効果はCO₂の数百~1万倍あるとされます。フロン類は冷凍・冷蔵・空調施設に不可欠な冷媒で、その適切な管理と漏えい量の把握は、企業にとって必須です。特にフロン類の漏えいは、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が定めた気候リスクに該当するため、企業には大きな社会的責任が伴います。経営者自らが、フロン排出抑制法の遵守を社内に徹底させ、これにより社員の意識向上や、当たり前の業務としてフロン管理を実施・報告することが望まれます。
注)文中のフロンはフロン類(特定フロン・代替フロン)の事を示します。調査結果概要
2023年10月時点のプライム市場上場の1653社のホームページを対象に、フロン対策について機器の点検管理状況や算定漏えい量など法遵守の状況を、正しく記載しているか調査し次のランクで評価し企業数分布をまとめました。
注)第1回、第2回調査まではランク(A,B,C,E,F)と分類していたものを今回よりランクEをランクDに、ランクFをランクEに変更しております。
- A:算定漏えい量、定期・簡易点検状況など適切に記載:76社
- B:法遵守の記載内容に一部不足がある:41社
- C:フロン排出抑制法の遵守の記載のみ、算定漏洩量のみ、あるいは機器点検の励行等の具体施策についてのみ記載している:162社
- D:フロンの記載はあるがオゾン層保護(特定フロンの対策)についてであったり、「フロン排出抑制法」を正確に理解した記載ではない*:10社 *建設解体現場、製品からのフロン回収実績のみ など
- E:「フロン排出抑制法」記載全くなし、あるいは法の理解度なし: 1296社
以上 合計 1585社 :有効対象社数
- ※ランクN 68社:
- 環境対策についての記載が見られない、あるいは2023年の統合報告書等を12月時点で未発表の企業については除外して上記1585社をの有効対象としています。
Rank A
Aランク企業(76社)算定漏えい量、定期・簡易点検状況など適切に記載
- 旭化成
- artience
- イオン
- いすゞ自動車
- 出光興産
- 伊藤忠商事
- ANAホールディングス
- AGC
- エーザイ
- エクセディ
- NTN
- 大倉工業
- 小野薬品工業
- カネカ
- 九州旅客鉄道
- 極洋
- クボタ
- クレハ
- コスモエネルギー
ホールディングス - JSR
- J-オイルミルズ
- ジャムコ
- 新日本空調
- 住友ベークライト
- 住友化学
- 積水ハウス
- 積水化学工業
- 積水樹脂
- セコム
- ソフトバンク
- ダイキン工業
- 大成建設
- 大平洋金属
- 太陽誘電
- 高島屋
- 中外製薬
- 中国塗料
- DIC
- T&K TOKA
- デンカ
- 東亞合成
- 東急
- 東京応化工業
- 東京瓦斯
- 東京電力ホールディングス
- 東ソー
- 東邦瓦斯
- 東北電力
- TOYO TIRE
- 南海電気鉄道
- ニコン
- 日清食品ホールディングス
- 日清製粉グループ本社
- 日東工業
- 日本触媒
- 日本曹達
- NIPPON EXPRESS
ホールディングス - 東日本旅客鉄道
- 日立製作所
- ヒューリック
- ファンケル
- 富士通
- プリマハム
- 古河電気工業
- ホシザキ
- マクセル
- 三井物産
- 三越伊勢丹ホールディングス
- 三菱倉庫
- 三菱地所
- 森永乳業
- ヤオコー
- ヤクルト本社
- 山崎製パン
- 古野電気
- ワタミ
Rank B
Bランク企業(41社)法遵守の記載内容に一部不足がある
- 味の素
- アクシアル リテイリング
- イオンディライト
- インフォコム
- エスペック
- カシオ計算機
- 上組
- 旭有機材
- 神戸製鋼所
- 駒井ハルテック
- シスメックス
- 信越化学工業
- スズキ
- 住友大阪セメント
- 住友林業
- 星光PMC
- セブン&アイ・
ホールディングス - ティラド
- 東海旅客鉄道
- 東京建物
- 東建コーポレーション
- 東洋水産
- 中山製鋼所
- 西日本鉄道
- ニチレイ
- 日新
- ニッスイ
- ニップン
- 野村不動産ホールディングス
- 伯東
- 久光製薬
- ヒロセ電機
- フクシマガリレイ
- 富士フイルムホールディングス
- 不二家
- フージャースホールディングス
- 明治ホールディングス
- 明電舎
- ヤマトホールディングス
- ユニ・チャーム
- ローソン
※東証プライム市場に上場している1653社(2023年10月時点)の環境関連報告書における「フロン排出抑制法」遵守状況の有無及び内容を調査しました。
※この評価はレポート全体ではなく、あくまでも「フロン排出抑制法」遵守状況報告に特化した調査です。
考察
表1に今回の調査結果を業種別内訳として示しています。
- 1)「フロン排出抑制法」遵守状況の詳細報告があることは経営者並びに会社方針としてフロン問題への理解が深く、SDGsの気候変動対策としてフロン排出抑制が必要であると認識していることを示しています。
- 2)Aランクとなった企業は、経営者がフロン問題とその重要性を理解しており、同時に社内ではフロン対策が徹底されていることが分かります。
今回のAランク評価76社は全体有効数の5%で、前回の49社(全体の3%)から大きく増えました。 - 3)単に「フロン排出抑制法を遵守」という記載だけでなく、「簡易点検や定期点検の徹底」や「算定漏洩量の明記、または(報告義務で定める)年間1000t-CO2未満である事を確認」といった具体的記載を記載する企業も増えており、調査においても高い評価としております。
フロン対策について何かしら記載の有るA、B、Cランクの合計数では279社で全体の18%でした。
(前回調査では全1745社中 A、B、C合計は223社/13% )
総じてAランク、Cランクが前回調査から大きく増えており、喜ばしい傾向とは言えますが、依然としてフロンについて記載のない(関心のない)企業(ランクE)が82%と高い比率を占めております。 - 4)業種別での分析
化学・医薬品においてAランクが23社、Bランクが6社、食料品ではAランクが7社、Bランクが6社、陸運・海運・空輸の業種でAランクが6社、Bランクが3社と他業種に比べ高い比率を占めています。
これらの業種では冷凍空調機器の使用(電気、整備費)は経営的な課題も大きい事、またフロン対策が今後の温室効果ガス削減に重要であるという経営者の認識が高くなっている一因であるのかもしれません。
会社規模が大きくても、情報通信(IT関連、放送局など)、サービス、金融の業種では環境関係の報告が乏しく、フロン対策に関連する記載が非常に少ない傾向にあります。
例えば賃貸で入居し空調機器類については管理会社に任せきりでいる等、自社事業におけるフロンという温暖化ガス排出への意識がまだまだ低い事がうかがえます。
全体の82%にあたる1296社がランクE つまり「フロン排出抑制法」遵守についての記載がありませんでした。さらにランクDとして、過去のオゾン層保護(特定フロン)について言及をされているもので「フロン排出抑制法」を正確に理解されていないと思われる企業、自社機器からのフロンの漏えいを抑制する目的である「フロン排出抑制法」遵守ではなく、廃棄自動車、建築物解体工事での冷凍空調機器などから「事業」として回収したフロン類のみを記載している企業もありました。
※プライム市場上場の要件として、TCFD*(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示の必要から、大多数の企業のホームページにおいて「サステナビリティ」「CSR」等のページが作成されています。
CO2排出量の推移、低減対策を記載はしていてもフロン(代替フロン HFC)の管理、排出削減に記載が及んでいる企業は全体としてはまだまだ少数派です。
*2022年4月に東証市場再編がなされ、プライム市場上場企業にはTCFD提言に沿った気候変動によるリスク情報の開示が、コーポレートガバナンス・コードにおいて実質的に義務付けられています。
企業は気候変動関連リスク、及び機会に関して下記の項目について開示することを求められています。
:ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標
また、今後はプライム市場だけでなく、スタンダード市場やグロース市場の企業もTCFD開示への対応を行わなければならない可能性もあります。
まとめ
A、Bランク企業の経営者はフロン類の漏えい防止対策に関心が高く「フロン排出抑制法」遵守に向けてトップダウンによる指示をされていると思われます。経営者のトップダウン指示は、従業員に「フロン排出抑制法」を遵守してもらうために不可欠です。
A、Bランク企業がまだ少ない理由は、一般の方たちが不可欠なインフラである冷凍空調機器の存在に気付かないことであり、殆どの人たちがフロン類について感心がないことです。それに気付く企業経営者が増えることこそが、この重要なインフラのサステナビリティを高めることではないでしょうか。今後の格付け調査ではA、Bランク企業がさらに増えるよう、JRECOとしても一層の啓発活動を行って参ります。
ところで、現在使っている代替フロンは2036年には生産が殆どできなくなります。機器を使い続けるためには「フロン排出抑制法」を遵守しフロン類を大切に使わなくてはなりません。それができないと、まだ使える機器を廃棄して新規に機器を、買い換えなければならなくなることを認識ください。冷凍空調インフラにとってまさに「存亡の危機」です。
注)特定フロン(CFC/HCFC)はオゾン層破壊効果大、 温室効果大代替フロン(HFC)はオゾン層破壊効果小、 温室効果大